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世界の赤を染める 高橋裕博 一口に赤と言ってもそれぞれに思い浮かべる色調は異なっていると思います。広辞苑を紐といてみますと血のような色と先ず記載されています。 やはり共通の認識としては人間の血の色が赤の基本であるように考えられ、赤ちゃん、赤子と言う表現や、還暦の祝いの赤いチャンチャンコに象徴されるように赤い色は生命そのものと言った捉え方がされています。一方赤信号のように視覚的に認識し良い色彩としても大変重要な役目も担っていて無くてはならない色といえます。 日本の国旗、日の丸に象徴されるように日本人は特に赤の好きな民俗と言って差し支えないでしょう、これは今に始まった話ではなく近世初頭にポルトガルより日本にやって来た宣教師のルイス・フロイス(Luis Frois 1532~1597)が本 国への「日本通信」のなかで「日本人は老若男女とも赤い衣装を上手く着こなしている」と報告していることからも窺がえます。 そして江戸時代中期の紅染屋のメニューには、本紅、紅、偽紅または紛い紅とあり、江戸市中では家庭での紅を染る染料として偽紅を売り歩く生業が有り、貧富の差を乗り越えて赤に対する並々ならぬこだわりが伝わってきます。 さらに広辞苑を紐といてみますと、赤とは緋色・紅色・朱色・茶色の総称とあり、赤と言っても色々な赤が有り、和の色名では、その数ゆうに100を越え紅色を始め茜色、臙脂色、朱色、緋色など枚挙に暇はありません。 そして世界に向けてこの赤色を見てみますと、イギリスには深紅色、クリムゾン(Crimson)が王室の色として王冠の金と宝石を引きたて、対岸フランスのベルサイユ宮殿では朱赤、ルージュ(Rouge)が溢れています。中近東へ行けば深紅のトルコ帽、ペルシャ絨毯の赤、インドのサリー、インドネシアのバティック、海を渡って新大陸に行けば、マヤ、インカなど様々な赤がみられます。 赤色の染料素材では、紅花、茜が国内では知られていますが、世界を見渡せばコチニール・ラック・ケルメスの三大貝殻虫の赤があり、島嶼を含む東南アジアではモリンダ(ヤエヤマアオキ)や沖縄の紅露(ソメモノイモ)の赤茶に近い赤が知られています。 このように地域の色相の好みと地域の染料素材との関連も窺えこれらの事をふまえ天然染料と染色技法に被染色素材を含め探って見たのが「世界の赤を染める」なのです。 この度の「赤の染色展」では、こうした様々な赤の染色を紹介し、その一部に触れられる体験もしていただこうという企画です。 |
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